出会い
王子様は運命を信じていました。運命の相手を見つけることが自分にとって一番大事なことだと思っていました。
だから身分目当てに言い寄ってくる人達にはなびきもしませんでした。王子様は運命の人が現れるまで、恋なんてする必要ないと確信していたのです。
そんな王子様が出席した、ある日の舞踏会。
王子様のまわりの女性達はアピール合戦です。さすがの王子様もお疲れの模様。ですが、そんなことをガン無視する肉食女性の1人が尋ねます。
「王子様は、一目惚れとかしたことないんですか?」
そう言われ、したことがあったらもう結婚してるわ! と思いながらも王子様は優しく返事を返そうとします。
「いえ、そのようなことになったことは・・・」
言いかけたそのとき、王子様の視界に、ガラスの靴を履いた美しい女性が入ってきました。王子様の視線は、その女性に張り付いて離れません。いえ、離せませんでした。
──やばいどうしよう。あの子だ。間違いない。運命の人だ。
王子様は、そう確信しました。確信したのはいいですが、ガン見しちゃってますね、王子様。完全に固まってしまっています。
まわりの女性達は、急に固まってしまった王子様に困惑しながらも、必死にアピールしますが、王子様にそんなアピールが伝わるはずもありません。だって、王子様はもう自分の世界に入り込んでしまっているのですから。
いや、王子様的には、自分と彼女の世界かもしれませんね。そして王子様、このままではいけないということに気づきます。話しかけなければと。
しかし、ここで王子様が今まで恋をしてこなかったことが仇となりました。なんて声をかけたらいいのかもわからなかったのです。
──どうしようどうしよう。このままじゃ運命の人を逃しちゃう。けどけど話しかけて引かれたら終わりだし。いやいや、話しかけなきゃ何も始まらないじゃないか!?
そんなことを考えている間の王子様、真顔で運命の女性をガン見です。さすがに気付かれて目が合います。目があっただけで心臓が飛び跳ねてしまっている王子様。ピュアです。すっごいピュア。これが初めての恋ですからね。仕方ありません。
そんなわけで結局動けずにいた王子様に代わって、運命の女性、ゆっくりと王子様の方へ歩みを進めます。どうやら運命の女性も王子様と会いたかったようですね。王子様の緊張はさらに加速します。
──え! こっちに来る。運命のあの子がこっちにくる。・・・男として、ぼくも動かないでどうするんだ!!
これはなんと王子様、意外なことに根性をみせてきます。意を決した王子は、ゆっくりと運命の女性の方に歩き出しました。
その光景は、きっと歴史的な瞬間であるように周りからは見えたことでしょう。ですが、王子様の頭の中は
──やばい。かわいい。やばい。最高。かわいい。絶対運命だよこれ。心臓の音聞こえたらどうしよ。はずい
もうお花畑ですね。
そうして二人は対面したのです。王子様は、ここで男を見せます。
「お嬢さん。ぼくと、踊っていただけませんか」
対する脳内。
『かわいいかわいいかわいいかわいいかわいい。踊りたいいいいいいいい』
そんな王子様の脳内を知ってか(知らない)、運命の女性、顔を赤らめながら返事をします。
「はい。喜んで」
その瞬間の王子様の脳内では
──うおおおおおおお!! きた! 運命きた! ぼくの時代だああああああああ
いや、ほんとに脳内見えてなくてよかったですね。
そんなわけで、二人は幸せな時間を過ごしました。
別れ
楽しい時間はあっという間に過ぎていきます。ですが、王子様は運命の女性を離す気が一切ないようです。しかし、運命の女性は時間を気にし始めます。
「王子様、私もう帰らなきゃ」
運命の女性は、王子様から離れていきます。
「待ってください! もう少しだけぼくに時間を」
王子様、必死に食い下がります。王子様はこの時気づいてしまったのです。楽しみ過ぎて調子に乗り、名前すらも聞いていないことに。経験不足とは恐ろしいものです。
しかし、運命の女性は本当に焦っている様子。
「もう12時になっちゃう・・・。ごめんなさい!」
運命の女性は走り出してしまいます。王子様は、一瞬呆気にとられてしまい動き出すことができません。
「待って・・・待ってください!」
ここでようやく王子様も走り出しますが、なかなか追いつけません。
──せっかく出会えたのに、ここでお別れなんて。絶対嫌だ!
しかし、王子様の願いも虚しく、運命の女性は馬車に乗り込み帰っていってしまいました。そんな馬車を、ただ見つめることしかできない王子様。
王子様はひどく落ち込みました。一生会えないかもしれない。そんな風に考えてしまったのです。どんよりオーラが溢れまくっています。
それでも王子様は自分を奮い立たせました。だってもう運命の女性のことしか考えられなかったから。一途だったから。好きになってしまった運命の女性。なんとしても、もう一度会いたい。
そんな王子様の思いが通じたのか、はたまた神様のほんの気まぐれか、王子様は目の前にガラスの靴が落ちているのを見つけます。運命の女性はすごく慌てていたので、脱げてしまったガラスの靴を拾わずに帰ってしまっていたのです。
彼女の落としていったガラスの靴。そんなかすかな手がかりでも、今の王子様を動かすには十分過ぎました。
そこからの王子様はすごかった。全ては、運命の女性と再会するために。そんな思いで、自ら探し回ったのです。
再会・・・そして
王子様は、ガラスの靴に合う女性を探し続けました。いくつもの街を探し回りました。
けど、そんな靴なんて必要なかったのかもしれません。だって、王子様が彼女を見分けられないわけがないですから。運命ですからね。絶対に見分けられます。
そうして王子様は、ある街で運命の女性を見つけることができたのです。ですが、他の人はおかしく思いました。運命の女性の格好が、あまりにもみすぼらしかったからです。こんな娘が王子様の探し求める人なはずないと。ですが、そんなことに構う王子様ではありません。
「ああ、ぼくの運命の人。どうかこの靴をはいてください」
その靴は運命の女性の足にピッタリと入りました。周りはとても驚いていましたが、王子様にとっては当然のことでした。一方で、王子様が自分を迎えに来てくれた喜びからか、運命の女性は涙をながしてしまいます。そんな彼女に、王子様は続けて言います。
「運命の人、どうかぼくに君の名前を教えてくれないか」
「・・・シンデレラ、です」
名前を聞いた王子様は、ここで一世一代の大勝負に出ました。
「そうか。シンデレラ・・・ぼくと結婚しよう」
「!? だって、私はこんなにも貧乏で、あなたとはつりあいません」
「そんなことはない。それにぼくの気持ちはもう決まっている。君しか見えないんだ。ぼくと一緒に生きてほしい」
周りがどう思っても、身分がどんなに違っても、絶対にシンデレラと一緒に生きよう。王子様は固く決意をしました。シンデレラも、そんな王子様と一緒に生きていくことを決めたようで、
「はい。私でよければ、喜んで」
涙を浮かべながらも、笑顔でそう応えたのでした。
ただ、こんな感動的な場面でも、王子様はこんなことを考えていたのです。
──やっぱりシンデレラ、世界一かわいい!!
多分、王子様のこれは一生治りませんね。
そんなこんなで、色々な障害に阻まれながらも、二人はそれを乗り越えていきました。そして、王子様とシンデレラは幸せに暮らすことができたのでした。
めでたしめでたし。